生産自動化技術を磨くなら日本こそがふさわしい
―なぜ、日本で会社を興そうと思ったのですか。
私は、ロボット技術が最も力を発揮できる分野の一つは産業用途であると大学時代から考えていました。 生産を人の手ではなくロボットが担うようになれば、高品質の製品を安価で造れるようになります。
そうなれば、現在よりもはるかに多くの人たちが最先端の製品を購入できるようになるでしょう。 そればかりでなく、これまで生産ラインに携わっていた人は、ロボットのおかげで時間が空いて、
その時間をもっと知的な仕事に充てることができます。
―新しいアイデアの案を出したり、デザインを考えたり、新規事業をプランニングしたり…。
はい。そういうクリエーティブな仕事です。工場の生産ラインで人が働くということは、人が一種の部品供給装置になるということです。これまではそれも必要な作業でしたが、今後は、そのような体力的にきつい仕事はロボットに任せるべきである。それが産業用途へのロボット技術の適用を私が考えた理由でした。
しかし、アメリカ国内ではどんどんものづくりが衰退していっています。ものづくりをビジネスとするベンチャー企業はたくさんあって、そういう企業に資金を出すベンチャーキャピタルもたくさんあるのですが、そういうベンチャー企業はビジネスが軌道に乗ってくると必ずといっていいほどアメリカ国外に出ていきます。
それに対して、日本にはものづくりの確かな歴史があって、ものづくりに懸ける思いの強さも他の国とは格段に違います。生産の自動化技術を磨くなら、日本こそがふさわしいと私は考えました。
―一時期、生産拠点を海外に移す企業が増えて、日本の製造業全体の空洞化が問題となったこともありました。
ええ。その風潮はこの数年で確実に変わったと私は感じています。コストだけを重視して、何でも海外に移すのは良くないことである。特に、ものづくりのような自国の強みが発揮される部分に関しては、そう考える企業が増えていると思います。
―やはり、ものづくりという点に関して、日本は特別なのでしょうか。
特別だと思います。生産工程が自動化することによる恩恵がどれだけのものか。それに対する想像力が日本の皆さんは非常に豊かです。それから、ものづくりへの熱心さ、品質を追求する気持ち、完璧になるまで諦めない心。そういった点が何より特別だと感じます。もっとも、そのような熱心さのおかげで、私はずいぶん悩まされてもいますが(笑)。
―ロボットに関しても、完璧なものを造るまで許してもらえないわけですね。
そうです(笑)。本当に細かなところまでパーフェクトにならないと、ご納得いただけません。しかし、それによって一緒に私たちの製品をブラッシュアップしていけると考えれば、これは間違いなく良いことだと思います。私たちが取り組んでいるような生産機械は、汎用品を造って手広く販売していくというモデルには合いません。お客様ときちんと人間関係をつくり、信頼関係を築いて、お客様からのフィードバックをいただきながら、より良いものを造っていくことが大切です。多少時間はかかっても、それが何より確かな方法だと思います。
日本から学んだチャレンジ精神
―一方、この20年、日本は以前のような勢いを失っています。リスクを恐れるようになっているという指摘もしばしば耳にします。
私は日本に来て6年目になりますが、確かにリスクを取りたがらないという雰囲気を感じることがよくあります。その理由として私が考えるのが、日本には「計画の文化」が根づいているということです。緻密に計画を立てて、できる限り失敗を避ける。万が一失敗した場合は、なぜ失敗したかを徹底的に追及する。そんな文化が日本にはあると思います。それはもちろん美点でもあるのですが、新しい領域や技術に挑戦しようと思えば、失敗がつきものです。失敗を恐れていては、チャレンジはできません。計画通りにいかないことの方がむしろ多いのです。
―イノベーションには失敗のリスクがつきものですからね。
しかし、だからこそ私たちのような小規模なベンチャー企業の存在価値があるともいえます。大手企業が資金力や、外部のパートナーをまとめあげる力によって小規模なベンチャーを支援し、ベンチャーは自らリスクを冒して新しい領域に挑戦し、大手企業とともに社会や人々の課題を解決していく──。そんなパートナーシップがあちこちに生まれれば、日本も変わっていくのではないでしょうか。
―ご自身のチャレンジ精神は、どうやって身につけたのですか。
実は、日本から学んだものです。私は大学1年生の頃、日本製品の品質の高さに感銘を受け、その品質の要因を知りたいと思いました。そして、そのためには日本語を学んで、日本の文化を知る必要があると考えました。それが14年ほど前のことです。
日本語の勉強を始めてみて、日本語にはとてもためになることわざや格言があることを知りました。「千里の道も一歩から」「失敗は成功のもと」「人は忍耐に比例して成功するものだ」「成功への鍵を握るのは教育である」「天才と狂気は紙一重」──。どれも素晴らしい言葉です。私はそれらの言葉を自分の信念にしたいと思い、習いたての平仮名と漢字でメモ用紙に書きました。そのメモは、今でも大切に取ってあります。
このような言葉を見ると、日本にも、もともとチャレンジ精神があったことがよく分かります。当然ですよね。チャレンジ精神がなければ、戦後の日本がここまでの発展を遂げたはずはありませんから。
―日本語で学んだその信念が、現在のMujinを支えているわけですね。最後に、これからの目標をお聞かせください。
生産工程の完全自動化を実現すること。文字通り「無人」の工場を造ること。人々の生活の質を向上させるために、世界のあらゆる場所に自動化を導入すること。それが私たちの目標です。